666   2003/12/03
前作とは正反対の、鋭いバンドサウンドで構成された作品。前作を「静」とすれば、こちらは「動」。外に向かって深く切り開いて行くような、強固な意志とエネルギーを感じます。また、ジャケットは白黒の反転写真を用い、前作初回版とは正反対の真っ黒。描かれているのも、前回の心臓に対して、今回はアップの顔写真。前回がHYDEさんの内面だとしたら、今作は外側に向かって放つ自分、といったところでしょうか。前作の時点で計画していたとも思えませんが、巧い対比で面白いです。

音は今回、3ピースのバンド形態を取り、HYDEさんご自身がギターを担当されています。ライブでの再現性を重視したアレンジは無駄がなく、荒削りな上に激しくて重い。しかし、メロディや音の重ねにはHYDEさん特有の"甘さ"や"華"があり、取っ付き難さはあまり感じません。メジャーっぽさを自然に轟音の中に持ち込んでいるのは、なかなか持ち得ないセンスですね。また、その中にあって、歪ませたボーカルは生々しくセクシャルな魅力! 前作とはまた違った輝きを放っていますv
歌詞は、「目覚めろ」とか「矢を放て」とか「取り戻せ君の意志」とか…矛盾に閉塞した世界の打破と、あるべき場所への帰還…といったところでしょうか? 内へ内へと沈み込んでいった前作を眠りに喩えるとしたら、今作はまさしく目覚め。しかしそれは、言葉の印象から推し測る限り、心地よいものとは思えません。むしろ、あるのは痛み。何が彼を、安息から叩き起こしたのでしょうか??

さて、実はこの作品、製品番号も「KSCL-666」。HYDEさんがアルバムを作成することを知ったスタッフさんが、気を利かせて、HYDEさんの好きなこの番号を押えてくれたそう。アルバムタイトルのほうが決定が後なのです。ちなみに、前作のROENTGENは「KSCL-444」(笑) HYDEさんが愛されているのが分かるエピソードですねv
注目曲

1.SWEET VANILLA  HYDE:詞曲
強力なギターリフと、起伏のあるキャッチーなメロディー。アルバムの最初を飾るに相応しい、HYDEさんらしい曲です。このアルバムでは、ライブでの再現性を上げる為にあまり打ち込みを使っていないそうですが、この曲に関しては、1曲目ということで派手さを出す為か、生音を補強するように多めに挿入されています。女の子のような、ハイトーンのハモりも必聴!(笑)
歌詞は、最初ライブで歌っていたものが暗かったため(笑)、CD化に当たって大幅に書き直したそう。新しい歌詞は、甘いラブソングなのかな、と思わせておいて…実は生まれてくる我が子へ宛てた歌詞のようにも読めます。

2.HELLO  HYDE:詞曲
ソロ第2期の口火を切ったシングル曲。この曲とHORIZONが、アルバムの中で最も初期に成立した曲だそう。内容的にも、かなりリンクしています。
じりじりと焼き尽くす…って、また砂漠です。そして死神です。…例の続編がまたやって来ましたよ(笑) 前作では、"最後の"煙草に火をつけて、諦めムードで今後を占っていた主人公ですが、やっと自分が地の果てで死に掛けていることを自覚したみたいです。極限の状態で思い出したのは、「君」。この曲は、2003年のSOAPツアーに同行したときには既に演奏されていたので、この主人公をHYDEさんの投影とするのならば、「君の待つ部屋」は時期的にライブハウスで良いでしょう。では"君"は? 順当に"ファン"とも取れますし…あるいは、最後の言葉の対比からして、SHINING OVER YOUで過去に分かれた同じ相手との、新たな未来を見たのかな、とも。
音は、疾走感があってキャッチーなロック。発売当時、ROENTGENとの対比なのか、「ギターロック」などと表現されることが多かったですが、むしろこの華やかさを演出しているのはリズム隊。メロディアスなベースと、連動するリズミカルなバスドラムこそが、歌メロを支えているのです。この方法論をHYDEさんに叩き込んだのはラルクだと思うのですが、どうでしょう?(笑)

3.WORDS OF LOVE  HYDE:詞曲
闇に片足を突っ込みながら、その状態で、相手には「真実を証明しろ!」って。「お前は俺が欲しいはずだ!」って…!(笑) 傲慢とも取れるし、それほどに追い詰められているのだとも取れます。切ないほどに希求しているのだ、と…。
この曲の仮タイトルは「DANCE」。その言葉通り、ギター、ベース、ドラムが重なって刻むリズムには、思わず身体を動かしてしまいます。また、印象的なサックスのメロディは、武田真治さんによるもの。ライブにゲストで参加してもらった際、演奏してもらったメロディがあまりに強力だったため、CDにも参加してもらったそう。華やかさと緊迫感の両方を演出していますv
ところで。曲中の「six six six」は、デモの段階では全て「kiss kiss kiss」だったそう。アルバムタイトルが決まってから、曲中に入れても面白いかもとのことで、差し替えられました。あまり意味の無いフレーズみたいです(^^;

4.HORIZON  HYDE:詞曲
歌詞がHELLOとリンクしていると書きましたが、矢を放ち続けて力尽きて死んでしまうのも悲しいので、多分、内容的にはHELLOよりも前でしょう。…そう思いたい(笑)
「あこがれ」つまり、存在することを願っていたオアシスは、蜃気楼よりも遠い。気がつくと、主人公は見渡す限りの砂漠の上、有刺鉄線に雁字搦めになっているのです…;; うーん…。この曲に対してHYDEさんは「嘘をつかれても、自分は嘘をつきたくない」「どんな状況にあっても、間違ったことをしたくない」と仰ってたので、有刺鉄線は嘘や裏切りの喩えでしょうか。「穏やかな日々」とは、過去の大切な時間で、主人公が取り戻すことをあこがれている場所でしょう。SHINING OVER YOUで言えば、「永遠に彩る(と信じていた)四季」。そして「君」は…HELLOと同じ解釈で良いのかな?
主人公が地平線を臨むと、「静寂」つまり死が呼ぶ声がする。でも、それでも微かな希望を持っている。そして「矢」つまり、自分の信じることを放つ、と。…強くて潔い、HYDEさんらしい詞ですよね。
アコースティックギターを使った、このアルバムの中では優しく暖かみがある音。それが歌詞の切なさを引き立てています。

5.PRAYER  HYDE:詞曲
この曲は少し毛色が違いますね。恐らく、反戦がテーマなのかな、と。「境界線」は、国境線であり、人間が決して越えてはいけない一線。他の曲と共通するところがあるとしたら、世の中は多面的で矛盾が多い…というところでしょうか。
テーマに相応しく、重苦しい音。地を這うようなギターとベース。それを押し流していくような、淡々としたドラム。どこか隊列の進む様子を思わせます。そこにあって、ボーカルは主人公の感情そのもの。低音で訥々と語るAメロ、迷いや嘆きを訴えかけるサビ。刻一刻と闇に沈んでゆく日没後の風景のような、暗い魅力が凝縮されています。

6.MASQUERADE  HYDE:詞曲
Aメロがサビより激しい! 重厚なギターと叫びのAメロから、甘いメロと声音で落とすサビ。面白い展開です。また、重いギターやベースに対して、スコン、と最高音を奏でるドラムも、パンキッシュで印象的ですね。
ラップ部分は、monoralのAnisさんによるもの。採用されたテイクは凄みがあってカッコ良く、曲のアクセントになっていますが、絶妙なテンポと語調は最初なかなかキマらず、笑いに包まれたレコーディングだったとか(笑)
歌詞は…世の中は嘘と矛盾だらけで全てまやかし、というのを、神への問いかけの形で皮肉ってます。「Promised land」にちょっと似たテーマかな? ただ、「私に神のご加護を!」というセリフには、皮肉以上の切実な望みが含まれているようにも感じられます。

7.MIDNIGHT CELEBRATION  HYDE:詞曲
タイトルは"真夜中の祝典"の意。自分を苦しみから救ってくれる悪魔の宴に出会った…といったところでしょうか。そして、「I play you obey」と言うからには、ご自身の投影なんだろうな、と。だとすれば"you"はファンでしょうか。ファンとしては、HYDEさんがどんな状況に陥ろうと、信じるし愛するよ!…という感じですが(笑)
全体としてはハードコア。HYDEさんのボーカルも叫ぶようで硬い印象ですが、サビで動き出すメロディアスなベースやダンサブルなドラムはむしろキャッチー。HYDEさんのバランス感覚が発揮されてますねv ライブではクライマックス的な曲。

8.SHINING OVER YOU  HYDE:詞曲
この作品の中では異色の、壮大で美しい音作りです。ストリングスの音色と、ファルセットを多用したサビ。もうちょっと柔らかいアレンジにしたら、前作ROENTGENの中に混ぜることすらできそう。
歌詞の内容も、他の曲とは少し違う感じ。他の歌が現在、もしくは近い未来を歌っているのに対して、この曲で歌われているのは過去。それも、「月の彼方から照らしている」って、そんな遠くまで流されちゃったんですか!? …つまり、遠い昔の別離なのです。ラストの「さよなら」は、あの時間を取り戻したい、という感情への"さよなら"。変わらず想っているけれど、もう振り返ることはしないという意志なのではないでしょうか。雰囲気の違うこの曲をアルバムに収めたことに対して、HYDEさんは「お口直し」などと仰ってましたが、ここで歌わなければいけなかった本当の理由は、再始動に当たっての決意だったからなのかな、と思います。

9.FRUITS OF CHAOS  HYDE:詞曲
「なぜ創ったの?」と言っているのですから、HYDEさんのこれまでの傾向からして、問いかけの相手は間違いなく神様ですね。神様への問いかけの形を取って、自分へと呼びかけているのです。神様の台本どおりのはずなのに、混沌に満ちた世界。そこに従う限り、自分は永遠に死んだままの人形に過ぎない。目覚めろ!…と。目覚めたとき、生を本当に知ったとき、世界は神様の台本より素敵なはず。…美しい歌詞ですね。
さて。この曲の仮タイトルは「LIVE SONG」だそう。確かに、全ての音が溶け合いうねる様は、激しくないのにダイナミズムを内包していて、高揚感を感じる曲ではあります。でも…ライブで盛り上がります!? ちょっとHYDEさんの感覚は分からないと思いました(^^;

10.HIDEAWAY  HYDE:詞曲
自分をもう一人の自分が俯瞰で見ている、という設定だそうなので、youと呼びかけられているのも主人公自身でしょう。説明のしようも無いほどハッキリとした歌詞で、アルバムの総括と言っても良い内容です。
サビの「HIDEAWAY」という部分は、デモテープの段階からそう発音されていたとのこと。正式な歌詞を作るに当たり、共作のLynneさんが上手く活かしてくれたそう。HYDEさんはどういうつもりで歌われていたんでしょう。"HYDE AWAY"かもしれないし、単に"HYDE WAY"かもしれませんが…。最後の「It's time. Are you ready now?」は、自然に「READY STEADY GO」に繋がって面白いですねv
音は、ストリートっぽく明るく軽快。ギターを中心に組み立て、ベースとドラムはシンプルに、キーボードやダビングは極力使わずに作られています。迷いを振り切ったようなラスト。