acid android   2002/09/25
夜の闇、何も無い虚空に放たれるかのような音楽。この音楽はきっと、誰かに聴かせるために作られたものではない。ひたすらにyukihiroさんの音世界が詰め込まれた1枚です。
表現されるのは、押さえつけられた感情の内圧と、それが爆発する時の破壊的なまでの激しさ。その一瞬の展開。かと思うと、精神世界をたゆたうような静謐。でもそこには熱も色も無く、炎や光すらグレーに沈んでいます。タイトルに違わず、まるで人らしからぬ音楽…。

サウンドはインダストリアル系。歪んだギターと打ち込みのノイズは、綺麗な音ではないのに気持ちいい。同じリズムパターンやフレーズを繰り返しながら変化させていくやり方は、かけ離れた音楽だけどクラシックみたいに規則的。進行も、サビの盛り上がりを中心に作られているポップスとは、ちょっと違う感じですね。…と言うより、慣れるまで何に注耳して聴いていいのか分からないかもしれません…(笑) なので、メロディを追いかけるより、音に溺れるように聴くべし。どの曲もノルのにちょうどいいリズムになっています。
ボーカルは、意外にも艶があってセクシーで独特の魅力。音の波間に漂うかのように歌う時もあれば、攻撃的に支配力を発揮する時もあり、新人とは思えない堂々とした歌いっぷりですv
注目曲

1.pleasure  yukihiro:曲
これは…1曲目なのか。8小節しかないよ!(笑) pleasureというタイトルはアルバム完成への満足感かと思いきや…そんな単純な話ではないようですね。メロディはなく、リズムのみでそのまま途切れなく2曲目に続いてます。

2.irritation  yukihiro:詞曲
タイトルは苛立ちや激昂という意味。歌詞中に「pleasure on the left   suffering on the right」とあることから、前後の曲を意図的にこのタイトルにしたのかと思われます。ということは、sufferingの対語でpleasureは快楽の意味ですね。
「pleasure」から続くリズムの上に乗る不穏なギターリフ。その音に浮き沈みするように紛れるボーカル。淡い苛立ちを潜ませた音は、後半に激昂へ! リズムにピタリと被さって奏でられる分厚いギターが迫力です。

3.suffering  yukihiro:曲
2曲目からインターバルなく突入。前曲で高められた感情がひたすら加速していくイメージ。1曲目から続くリズムの上に、さらに沢山のリズムが重ねられていって終わります。この頭の中が拡張していく感覚、気持ち悪いようで気持ちいい(笑)

4.intertwine  yukihiro:詞曲
キャッチーでカッコ良くてノリやすくて、前半のアクセント的な曲。乗りやすいと言うか…ライブでは強制的に飛ばされますね(笑) 基本的なリズムを少しずつ変化させていって、大まかに3段構えの展開になってます。
前半では何やら哲学的な話かと思わせておいて、後半まで来ると恋愛詞であることが分かります。あなたが微笑みかけてくれても自分には伝わらない。主人公はそれを、自らの欠陥の所為だと思っているようですね。「communication failed」という歌詞は主人公の孤独を感じさせますが、それでもその関係に救われているのかな、という気もします。

5.unsaid  yukihiro:詞曲
サラッとした印象の、お口直し的な曲。 最後まで繰り返されるギターのフレーズを中心に、沢山のフレーズが重なっていって、高まったところで終わります。規則的で綺麗なのにどこか不調和を感じさせるところもあり、心に潜む不満や日常の矛盾など、小さいけど重大な破綻を暗示しているかのよう。

6.relation  yukihiro:詞曲
微妙に揺れて籠った音や無数のノイズが終始不穏な印象。人間関係が歌詞のテーマですね。自分の身の処し方に自信がありつつ、でも腹立たしいことは腹立たしい…てことかな? 前半の呟くような歌い方に対して、後半は感情の高ぶりを表すかのような強さ。更に分厚く重ねられたギターが、内面の圧力を感じさせます。

7.double dare  Bauhaus:詞曲
80年代前半にイギリスで活躍したバンドBAUHAUSのファーストアルバムより、「DOUBLE DARE」のカバーです。歌メロや大まかな展開は原曲にほぼ忠実。きっと好きな曲なんでしょうね。
ホラーな雰囲気の原曲に対して、こちらは破壊的! 轟音のギターに、打ち込みのドラムも比較的生音に近い感触で入っています。ボーカルも力強くyukihiroさんの声質に合っているので、ぜひライブでも聴きたい1曲v

8.in loops  yukihiro:詞曲
インターバルゼロで前曲からなだれ込み。曲は完全に繋がっていますが、内容はリンクしていないですね。こちらは…恋愛詞なのかな? 前曲のテンションのままに、最初から激しく奏でられる沢山のギター。ドラムも生っぽい重みを感じさせる音に仕上がっていて、ハードで気持ちいいです。

9.into air  yukihiro:詞曲
印象的なギターリフを中心に組み立てられた静かな部分と、轟音ギターに身を委ねる中盤。一瞬乗ってくる弦楽器のようなシンセ音のメロディが、浮遊感をより増してます。歌詞で「air」と言われているのは、音の暗喩かな? 「sky」はこの音楽の世界。まさに聴き手を音に漂わせてくれる1曲。

10.amniotic  yukihiro:詞曲
激しい中にも美しさや透明さを感じる曲。アルバムのクライマックス! ボーカルとシンセの揺れる不安定さに、ギターやドラムの重厚な力強さ。交互に現れ交じり合うのは、精神世界の波か。
ギター以外は打ち込みですが、沢山の音色が重ねられていて凝った作りですね。特に、2種の音が所々重ねられてるドラムは、打ち込みならではの面白さ。ボーカルは…高い方は機械処理で変えてるのかな? ずっとオクターブ違う2つの声が絡み合っていて、不思議な雰囲気を醸し出しています。

11.stoop down  yukihiro:詞曲
前2曲で精神世界に飛び立ってしまった心を目覚めさせるかのような、ワザとらしいほどデジタルな音。最後にもう一展開持ってくるのが憎いですね(笑)
ギターの繰り返されるフレーズは、アルバムの冒頭を彷彿とさせます。同じフレーズでこの世界に誘っておきながら、同じフレーズで突き放す…。歌詞の内容と加速していくかのようなリズムも手伝って、荒々しくクールな印象の1曲。