heavenly   1995/09/01
ラルク初の、そして現在のところ唯一のセルフプロデュース作品。前作「Tierra」での繊細で透明な姿は、完成型と見えてまだ仮のものだったのか。今作では自らその殻を破る、まるで羽化したてのアゲハ蝶が羽を伸ばしてゆくかのような、瑞々しさと力強さに溢れたアルバムです。
まず一聴した印象としては、音も曲も若い(笑) 誰の手も加わっていない曲たちは生固く、時に荒々しさすら感じるほど骨太でロック。そして、だからこそ鮮烈に感じられる、生き生きとした演奏面での魅力! 「True」が表名盤だとしたら、こちらは裏名盤といったところ。

まずドラムの、ダイナミックと繊細さが同居した叩きっぷりが素晴らしいです。次作では裏方に徹しているドラムですが、このアルバムでは主役! 極端に言えば、ドラムだけ聴いていても飽きないアルバムに仕上がってます。この時代の楽曲は、最近ではあまり演奏されなくなってしまいましたが、それも宜なるかな。sakuraさんの特長が良く出ていますね。2番目の主役はギター! こちらはラルク全体の歴史を通してみても、類を見ないほど弾いています(笑) 「True」以降は曲全体のバランスを取るように奏でられることが多いギターですが、今作はむしろ、ギターを中心に据えた曲の作りになっていますね。そして、この2人に挟まれて相対的に下がった印象のベースですが、ベースだけ取り出して聴いてみるとかなり派手で独特! これまでは見られなかったフレーズや音色が惜しげもなく盛り込まれ、曲のフレームを抉じ開けてます(笑)
この生き生きとしたサウンドに乗る詞ですが、意外なことに「孤独」を感じさせる歌詞が多いですね。タイトルからすると不思議な気もしますが…。当時hydeさんはこの単語を、アルバム完成時の感想やライブ会場でよく使っています。孤独を意識させられても、音楽の中には他者と繋がる瞬間がある。その瞬間がhydeさんにとっての「heavenly」なのかもしれません。

さて。「heavenly」は初のセルフプロデュース作品ですが、作品だけではなく、これまで事務所主導だった活動がメンバー主導になったのもこの頃。バンドの活動内容や運営方針を決めるために行ったというデニーズミーティングは、あまりに有名なエピソード。(今だったら大騒ぎですね/笑) 手ごたえもあったでしょうし、きっとバンドの未来に対して明るいものを感じていたのでしょう。深読みしなくとも、「heavenly」という言葉は単に当時の彼らの素直な気持ちなのかなとも思いますv
注目曲

1.Still I’m With You   hyde:詞/ken:曲
1曲目から、これまでのラルクのイメージを打ち砕くかのような、清々しく広がりのあるポップソング! 空に駆け上っていくようなギターに絡むドラムがメチャメチャ気持ちいい。ベースは2本入ってますが、珍しく余り弾いてないですね。ボーカルと掛け合いをするかのようかのようなちょっと変わった音のベースと、小さく通奏低音を奏でてる普通のベース。あとタムみたいな音もしますね。凝ってます。
歌メロの音域が常に高めなので、hydeの声がちょっと固いんですけど、それが逆に曲調に合っていて若々しさを感じさせます。

2.Vivid Colors  hyde:詞/ken:曲
このアルバムでは唯一プロデューサーを起用した曲。その為か、アルバムの中で群を抜いて洗練された仕上がりになっています。伸びやかなギター、ドライブ感のあるベース、ダイナミックなドラムに、駄目押しのようなストリングスの音色。ポップで広がりのあるサウンドの上に乗るのは、瑞々しい透明感のあるボーカル。…この曲でブレイクしても良さそうなのですが…(笑)
歌詞は…多分別れの曲なんですけど、そこに広がる世界を「Vivid Colors」と表現しているのが面白いですね。悲劇的な別れではなく、少し思い出に浸れば、また歩き出せる手ごたえを感じているんでしょうか?

3.and She Said  hyde:詞曲
hydeさんらしい、ややこしくて不思議な雰囲気の曲。サビでも展開的には盛り上がらない、と言うかむしろ、サビは何処なんだというのが斬新ですね!(笑) 演奏面では弾けていて聴きどころ満載! 特に、ドラムと連動して動くベースのフレーズが耳に残ります。ラフな雰囲気なのにガッチリ噛み合ってる感触はバンドならでは。
「セロファンの花」なんて聞くとHYDEソロのファンは「Lucy in the Sky with Diamonds」を思い起こしちゃうのですが、多少は意識してるのかな? むしろ、裏意味のLSDに即した歌詞ですね。この絶妙のトリップ感が気持ちイイです。

4.ガラス玉  hyde:詞/ken:曲
これは外せないですね(笑) 例えば復活後で言えば「fate」のような、ラルクにしか出来ないラルクらしい名曲。もう歌詞からして凄く素敵なんですけど、この「ガラス玉」とは水面へと上がっていく空気の泡。海へ身を投げて、水底へと沈んでゆく主人公の口から零れる吐息が、泡となって月明かりに輝いているんですね。静寂の中、自分の命の最後の時間を見つめていた主人公の感情は、サビで爆発。迸る感情がそのままギターの音色になって、千切れ飛んでいくかのよう…。とにかくギターは鳥肌もの。
そしてアルペジオの波の中、再び静寂。ぷつぷつと途切れて消えるギターが、切なくも美しい世界を静かに閉ざします。

5.Secret Signs  hyde:詞/ken:曲
これは初めて聴いた時に何か違和感がありまして…。音構成も4人+キーボードというシンプルさだし、曲調もハードロックな感じなのに…一体このアダルトでイカガワシい感じはどこから来るのかと…(笑) で、ふと気付いたのですが、コレってもしやジャズっぽい!? このシンバル使いといいベースのフレーズといい…これが私にはアダルトに感じられるみたいです。
そのムードタップリな曲に乗るのは、なんと不倫の歌詞! 「プラチナの明かり」とは結婚指輪ですね。歌うhydeさんの声も艶めかしく、このアルバムの中では異色で、アクセントになっています。

6.C’est La Vie  hyde:詞/tetsu:曲
明るくてポップ! 今でこそ珍しくない曲調ですが、当時のラルクでは衝撃的なポップさです(笑) とは言え、複雑なのはベースのみ。裏メロを取っているというだけでなく、跳ねるような独特の弾きっぷりがポップさを演出してますね。ギターとドラムはどこかお茶目で可愛らしい雰囲気。
歌詞は、特に書かれていませんし時期的にもずれてますが、クリスマスソングになりそう。「もう、どうなったっていい」というような投げやりとも取れる内容ですが、ポップな曲調と相俟って、何処となく前向きです。

7.夏の憂鬱  hyde:詞/ken:曲
この曲は凄いですよ! 曲そのものを壊しそうなほど(笑)アレンジが凝っていて、シングルバージョンとは全く別の作品になっています。何個の楽器を使ってるのかな? アコギとエレキギターが2本とベースが2本。まだ足りないのかピアノやパーカッションの音色も聞こえますね。このパーカッションと独特のリズムが、どこか異国っぽい雰囲気を醸し出しています。
とにかく演奏面の聴きどころが多いのですが、2番以降ところどころ入ってくる、2本目のベースのフレーズが面白い。音も指で弦を弾いているような、tetsuさんのベースにはあまり無い音ですね。

8.Cureless  hyde:詞/tetsu:曲
アレンジは間違いなくheavenly期のものなのですが、何処となく前作以前の雰囲気を持っている曲ですね。
歌メロに対して、ベースとギターがそれぞれ対旋律を取っていて華やか。特にベースは、ベースから飛び出してくると思えない目立ちまくったフレーズに脱帽…。てっちゃんのメロディアスは、こういう暗い曲に展開しても際立っています。

9.静かの海で  hyde:詞/L'Arc〜en〜Ciel:曲
この曲を聴くためだけにアルバムを買っても悔い無しの大作! 限りない感情のままに解き放たれてゆくギターソロ。添えられるボーカルとコーラス。骨格を支えるリズム隊とパーカッションたち。宇宙空間に広がってゆくかのような美しくて壮大で優しい音に、胸を締め付けられてください。
クレジットはラルクになってますが、曲の原案はsakuraさん。そこに4人で肉付けしていったそう。天才が4人が合わさるとこんな曲が出来てしまうのね。
歌詞は珍しく、舞台設定がハッキリしてます。ここで言う「海」とは水のあるあの海ではなく、月の地名。「静かの海」はアポロ11号が着陸した場所なんですよ! そこには今も、アポロ11号が地球に戻ってくる際に使用したパーツが残されているのですが、「静かの海で」はそのパーツの想いを歌ったそうです。ロマンティックで壮大なお伽話なのか、現実の比喩なのか。切ないけど不思議に悲しくはない、新境地を開いた歌詞ですねv

10.The Rain Leaves a Scar  hyde:詞/ken:曲
最後にもう1度ギアを最速に入れ直す感じでしょうか? 雰囲気があってドライブ感満載でカッコ良くて、暗いのに派手! kenちゃんらしい、短調の中に激しく展開していく曲調が、最後に感情を燃え上がらせます。
とは言え、どこかに冷静さを感じるのも確か。ギターとベースがまるでピアノの右手と左手のように連動してフレーズを紡いでゆくAメロ、全ての音が渾然一体となってうねるようなサビ。劇的な曲調なのに、どこかそれを俯瞰しているような視線は「雨さえも自分の傷跡を癒せない」と言い切る主人公のものか。カタルシスには程遠い、胸を掻き毟りたくなるような歯痒さにもう1度アルバムを回したら…それはきっと思う壺!?(笑)