REAL   2000/08/31
前作2組の軽やかで透明なサウンドから一変。キラキラとした装飾は取り払われ、4人の直のエネルギーが露出したロックなアルバムになりました。ノイジーで歪んだ音は、重厚で破壊的で重戦車の装い。ボーカルも男性的で力強く、これまでに無いハードな印象。もともと決してファンや世の中に媚びたりするバンドではありませんでしたが…媚びてないどころか、明らかに突き放しにかかってます(爆) でもそこがクールでカッコイイ。

さて。「REAL」という名を冠されたこの作品ですが、押し込められたエネルギーが半端じゃない! 音から感じるのは圧力。ノイズを纏った音は美しい世界よりも現実の重力を感じさせ、歌詞にはもはや皮肉で笑い飛ばすには重過ぎる閉塞感と、それを脱ぎ捨てて飛べるはずだという自負がせめぎ合ってます。そして、圧倒的な重量感で突き進んだ末に待っているのは、まるで別の作品のような表情のバラードが3曲。う〜ん。
このアルバムは1つの物語のようにも見えます。荒々しく激しい衝動を叩きつけるオープニング。歪みを内包したまま、それを物ともしない力強い歩みを見せる中盤。唐突に疲れを見せ感情を吐露する後半。救いのように優しい愛情に満ちたエンディング。これは時代のリアルだし、彼ら自身が当時感じたリアルでもあるのかな。…なんて、邪推ですけど(笑)

ジャケットの石像は、屋根などに付けられるガーゴイルという守り神。日本で言えば鬼瓦みたいなもの?(笑) もともと神様だったものが、キリスト教の影響で怪物の扱いになっちゃったみたいですね。青い空をバックに膝を抱えている佇まいは、守り神と言うよりも時代の傍観者といったところ。
注目曲

1.get out from the shell  hyde:詞/yukihiro:曲
1音目で「何が始まったんだ??」って思った方も多いのでは?(笑) およそラルクらしくない、華やかでもメロディアスでもない不穏な打ち込みの音に緊張感が高まります。ボーカル、ギター、ベースと徐々に音が重なり高まる圧力はサビで爆発! この一瞬の展開はyukihiroさんらしくてクール! サビには更に生ドラムを重ね、ボーカルには金属的なエフェクト。デジタルな手触りなのに生々しい、不思議なサウンドになってます。
歌詞は…平たく言えば「脱却せよ!」ってところでしょうか? shellは頭蓋骨。自分という殻から脱却せよ、なのです。

2.THE NEPENTHES  hyde:詞/ken:曲
1曲目から2曲目への繋がりがカッコイイ! 打って変わって生音中心のサウンドで攻めてきます。このアルバムのハードなイメージは、最初2曲で決定付けられていると言っても過言ではないですよね。
ゴリゴリとしたAメロに対して、ボーカルに女性コーラスが絡んでベースとドラムが動き出すサビが、最高にエロい(笑) 曲そのものが1つの生き物のように蠢いてると言うか…タイトルまんま、ウツボカズラです。前曲が精神的な衝動なら、こちらは肉体的で本能的な衝動といった感じ。

3.NEO UNIVERSE  hyde:詞/ken:曲
作曲者のkenちゃんに、どうしてこんなことになったのか訊いてみたいですね。もうギター全然弾いてないです(笑) ギターのように聴こえるメロディはてっちゃんの6弦ベースで、ギターソロじゃなくてベースソロなんですよ〜。で、メインのリズムは打ち込み。ユッキーもあんまり叩いてないです。こういう曲をシングルにして、サラッとヒットさせちゃうところが憎い(笑)
歌詞はhydeさんの2000年観を表現したそうですが…抽象的過ぎ!(笑) そもそも「あなた」が何なのか謎。影を抱えていても、未来へ踏み出そうって解釈でいいのかな??

4.bravery  tetsu:詞曲
久しぶりにこの曲を聴こうと思って掛けて…スピーカーが壊れたかと思いました(笑) てっちゃんらしい美しいメロディに、ノイジーで汚れたサウンド。この曲に彼ら自身を重ねてしまうのは歌詞だけの所為じゃなくて、曲そのものが表現する歪みの所為でもあるんだよね。
初めて聴いたとき、こんな現在進行形で輝いている人たちにも「キラめく時」なんて表現する大切な過去があるんだなって、凄く不思議な気持ちになったのを覚えてます。作詞者のてっちゃん曰く、自分たちのことを歌ったわけではないそうですが、何の経験も無いところから想像で出てきたとはさすがに思えないワケで…。そう思うと、余計に愛しい…いえ、素敵な曲だなって思います(笑)

5.LOVE FLIES  hyde:詞/ken:曲
ほぼ4人の音のみで構成された曲。ホント演奏面での聴き所が満載なのですが、何と言ってもサビのyukihiroさんのドラムが! メロディに添うように、1フレーズごとに違うリズムを奏でてます。もうこれは「叩いてる」じゃなくて「奏でてる」ですね。ギターもベースも次々にフレーズが花開いていく感じで、それが渾然一体と溶け合っています。ハードで太いサウンドなのに華やか! 最後のサビに被ってるギターソロを一音一音味わったら、もうお腹いっぱいです(笑)
これはグラクロで見た風景を曲にしたそうですが、kenちゃんが視覚的広がりを表現した中にhydeさんが見たのは、インナースペースの広がり。「あなた」は「憧れ」そのもの。自分の中に広がる果てしない世界が綴られた、不思議で美しい歌詞ですね。

6.finale  hyde:詞/tetsu:曲
映画「リング0」の主題歌になった暗いバラード。ラルクの中では大曲の部類に入る作品ですが、その隅々まで、重ねられた音の一音一音にまで神経が行き届いていて、地力を見せつけてますね。4人がかりでアレンジしたストリングスが全編に渡って大々的に挿入され、美しかったり不吉だったり儚かったりして大変!(笑) 他の音も全体的にアナログな手触りで、全日本語の歌詞によく合ってます。
歌詞は、映画のストーリーに反った内容。どうしようもない悲劇を背負って生まれた主人公を愛する、恋人の視点で書かれています。

7.STAY AWAY  hyde:詞/tetsu:曲
わ、言っちゃった! 直球過ぎじゃないですか?このタイトル(爆) 所詮は歌詞なので、あんまりご本人方に重ねて考えるのはよくないと思うのですが…これは実体験が元になってるよね??(笑) hydeさんは「時代が寄り添ってきた」とおっしゃっていたことがありますが、音楽に寄り添われるのはともかく、自分達にベタベタされるのはちょっとうんざりらしいです。でもまあ、あっち行け!以上の冷たいことを言っているわけではなく、この辺りのサジ加減が絶妙といえば絶妙(笑)
REAL期の特徴であるノイジーなサウンドで、ポップなのにロックな印象。ベースとドラムが最後までドライブ感満載で引っ張ってくれます。

8.ROUTE 666  hyde:詞曲
hydeさんのロックな部分が出たシンプルな曲…なんだけど、演奏は全然シンプルじゃないです。次から次へと畳み掛けるように新しいフレーズやリズムが繰り出されて行く様は、先を争って走っている感じで疾走感たっぷり! ぜひライブで聴きたい1曲。
歌詞もちょっと連動している感じで面白いですね! この主人公は何かに追われて、猛スピードで走っています。その勢いたるや、同行者を振り落としそうなくらいなのです(笑) でも、破滅への道行きなのかと思いきや、道の先に主人公は標的を感じている。明日も夢も、この不毛な砂漠の道の先にしかない。少なくとも主人公はそう信じて、捕まえられないように走っている。…そんな物語かな?

9.TIME SLIP  hyde:詞/ken:曲
え〜とAメロのユキが変なんですけど!(笑) どうしてこの静かな曲にそんな独創的なリズムを当てちゃうのかなぁ? その所為でAメロがサラッと流れない。いつもは疾走感を演出するユッキーのドラムですが、ここではむしろ思い戸惑う感情の揺らぎを感じさせますね。ベースは珍しく完全な裏方。右から左から入るギターのフレーズが感じさせるのは、やっぱり揺らぎ。
歌詞は、もう前曲との落差が凄い! 破滅的な勢いで「明日へ向けてまわれ」「夢に踊れ砂漠で」と叫んでいた前曲ですが、この曲は意図していない場所に来てしまった戸惑いと寂しさに満ちています。ただ、その中で最後に「それでもうでを伸ばしてささやかな夢を僕らは辿ってゆく」「淡い炎を絶やさぬよう今日も明日へ向かおう」の辺りは、まだ先の未来に希望を持っているようにも見えます。

10.a silent letter  hyde:詞/ken:曲
歴代の曲の中で最もスローテンポな曲の1つ。盛り上がりも超ゆっくり! ちょっとづつ音を重ねていって、頂点の盛り上がりから、ふっと沈んで終わります。これがなんか「こときれる」って印象。主役はボーカルとギターで、この2人の感情を解き放つような音に聴いているほうも感情を引きずられて、ふっと放されて終わる感じ。
ラルクの曲には、切なさとか絶望とか感情の影の部分を含むものが多いですが、ここまでの、立ち上がる気力も奪われるほどの喪失感を表現した曲は無いんじゃないかな。…そんな曲ですが、仮タイトルは「タモソング」なんですよね(笑)

11.ALL YEAR AROUND FALLING IN LOVE  hyde:詞曲
こんな重たいアルバムの最後に、hydeさんが救いのように用意したラルク初!のラブソングらしいラブソング。歌われているのは本当に普通の愛情なんですけど、その中でもう1度「殻を壊そう!」とアルバムの冒頭に繋がる一節が出てきますね。よくよく見てみると「ふさいだきりの扉を開けて」とか「さよなら重力…僕は自由だ!」とか…このアルバム全体に重苦しく圧し掛かっていた閉塞感から一気に解き放たれるような歌詞。サウンドも軽やかで、サビでは空に広がっていくようなイメージ。
運命といえば「fate」だったhydeさんが「destiny!」とか言い出すので…ちょっと何かネジ外れちゃったかと(笑)思いましたが、結局は愛情が全てを動かし解き放つ鍵、という今となってはSMILEの予告編のような作品。この先の物語を聴くのにずいぶん時間が掛かってしまいましたが…ちゃんと芽はあったのかなと思うと、感慨深いです。