ROENTGEN   2002/03/27
通常版

.english
HYDEさんの記念すべきソロ第一弾アルバム。ラルクにおいて、HEART以降加速しつづけていた攻撃性や毒々しさといったものとは隔絶された、静謐な風景。REALで、タイトルそのままのリアルを描いたHYDEさんは、ラルクから自らを切り離し、世界を他者から閉ざすと、それを曲として吐き出しました。心臓をモチーフにしたジャケット、レントゲン写真の歌詞カード、そしてタイトル。これらは、このアルバムがHYDEさんの世界をそのまま透かして写し取ったものであることを表しているのではないでしょうか?

サウンドはギターの他、弦楽器や管楽器、ピアノの生音を大々的に挿入し、ベースの代わりにコントラバスを使用。透明でアコースティックな雰囲気は、一幅の絵画のよう。乗るHYDEさんのボーカルも、決して張り上げることなく、低音を中心に組み立てられていて、濃密な美声を堪能できますv
そして、歌詞に描かれるのは、逃れることの出来ない生と死の無限のループ。PV集「ROENTGEN STORIES」で驚いた方も多いと思いますが、HYDEさんは最初のシングルEVERGREENを作成したときから、この全体像を思い描いていたってことですよね? ちょっと恐ろしい(笑;) また、PV集では存在が曖昧ですが、アルバムの中では"主人公"以外に、もう一人の他者が存在します。それを追っていくと、何度も運命に導かれて出会っては、決して一つにはなれずに分かたれてゆく、ある二人の物語とも捉えることができそうです。

ROENTGEN Englishは、ROENTGENとオケは同じで、ボーカルだけが全英語詩で録られています。これは、アジア版としてアジアで発売されていたもので、映画「下弦の月」の公開に合わせて、日本でも発売になりました。HYDEさんのもともとの完成像には、英語版のほうが近いみたいですね。発売に際して、シングルのカップリングだった〈english ensemble〉というバージョンも、ボーナストラックとして入っています。
注目曲

1.UNEXPECTED  HYDE:詞曲
タイトルは「思い掛けない」の意。とにかくこの言葉の繰り返しが印象的ですね。淡々と進む音楽は、途中でふと明るさを帯びて開けます。歌詞を読むと、これは人が生まれていく瞬間、このアルバムのテーマに沿って解釈すれば、転生の瞬間、といったところでしょうか? それでは、この規則正しいコントラバスと打ち込みのドラムは、鼓動の表現かもしれません。幻想的な曲。
ライブでは最後に演奏されることが多いですが、誕生であり再生でもある曲を最後に演奏するというのは面白いですね。

2.WHITE SONG  HYDE:詞曲
「冬は寒いけれど、それから逃れようとして人が身を寄せあう感覚は暖かいと思う」とのこと。冬や雪が暖かい、という感覚は、「winter fall」や「snow drop」でも歌われていますね。でも、ここで歌われている「冬が暖かい」という感覚は、人が身を寄せあうから暖かい、などというような優しいものとはかけ離れているようにも思います。曲中に出てくる"reset"や"cleansing"という言葉は、日本的に言えば"浄化"でしょうか? 何度も生まれては分かれなければいけない痛みを、文字通り"リセット"することで、もう一度乗り越えることができる。それは救いなんでしょうか…? うーん。曲中の主人公はそれを「待てない!」と言うのですから…それほど相手に会いたいのでしょう。
規則正しい音に、途中からスネアドラムをメインに使ったドラムが入ってきて、まるで主人公の逸る心を表しているかのよう。最初から最後まで添えられたストリングスが、冬の清冽な空気を感じさせて、タイトルそのままの真っ白なイメージ。

3.EVERGREEN  HYDE:詞曲
アコースティックギターの上に、ピアノやサックス、ストリングスを重ねて、優しく穏やかな音色。仄かに暖かい光が、曲中に降り注いでいるかのよう。
しかし、そこに乗る歌詞は過酷。最初に組んだバンドのベーシストさんが亡くなったとき、その方が奥さんに宛てた気持ちを思って作った…とのこと。このアルバムの中では最も舞台設定がハッキリしていて、最も現実的な内容です。それだけに凄みがあり、この限りない相手への愛情と底のない諦念こそが、音のあの穏やかさに繋がっているのかと思うと、思わず戦慄。ブレスを多めに取ったHYDEさんの搾り出すようなボーカルにも、切なさを掻き立てられます。

4.OASIS  HYDE:詞曲
アメリカの砂漠のイメージだそうですが…何か引っかかりません?? 砂漠、死神、そしてバイクと来れば「ROUTE666」! 内容的にも、続編と捉えても通りそう。ROUTE666では死神を引き連れて砂漠を疾走していた主人公ですが、この曲ではついにエンジンが壊れ、死神に捕まってしまった様子。昼と夜が、破壊と創造が、生と死が繰り返しても、何も変わらない不毛の地。求めるオアシスは蜃気楼なのか…。そして気になる一節。「最後の煙草に火をつけ」…これは、HYDEさんご自身を投影した曲なのかもしれません。主人公の行く末が気になるところですが…。
サウンドは、前3曲がしっとりとした雰囲気だったのと打って変わって、乾いた感触。淡々とした打ち込みのドラムとベースが、それを強めていますね。

5.A DROP OF COLOUR  HYDE:詞曲
この曲は映画「化粧師」のイメージソングでしたが、歌詞中の"Colour"は、映画に沿うなら"化粧"の意でしょうか。あなたの居る風景しか色付かない…とか、次のSHALLOW SLEEPに通じるような解釈をしても良いかも。それなのに、主人公を癒してくれる相手を、主人公が癒すことはできないんですね…。静かに崩壊に向かう世界を感じながら、届かないと知りつつ相手を案じている感じ。
ピアノやトランペット、ドラムのシンバルを効果的に使用し、ジャズにも似た、どっしりと気だるいアレンジ。低く呟くようなAメロに対して、サビの切々とした中高音に揺さぶられます。

6.SHALLOW SLEEP  HYDE:詞曲
初めて聴いたとき「Sell my Soul」に似てるな…と。現実には逢えない人に、夢の中で逢う。他にも「As if in a dream」とか、ちょっと雰囲気が違うけど「flower」とか…。SHALLOW SLEEPでは相手は死んでしまったように感じますが、もしかしたらもっと遠くおぼろげな、前世とか、そういう記憶なのかもしれません。
アコギから始まり、エレキギターやストリングスと自然に音数が増えていく様子が、主人公の感情の高まりとリンクして、自然と切なさに導かれます。最後の、ふと曲調が明るくなるのは、主人公が再び眠りに落ちたことを暗示しているのでしょうか。

7.NEW DAYS DAWN  HYDE:詞曲
このアルバムの中では、異色の音作り。金属的なノイズと、低音を浚う不吉なストリングスが耳に残ります。後奏にだけ挿入されたトランペットは"新しい時代の夜明け"を告げる音か。
歌詞はいきなり「本当に真実を知っているのか?」という問いかけから始まりますが、それへの答えとして「それは一面に過ぎない」「光に祈ることなんて無意味」「神の祝福なんてまやかし」と散々です(笑;) そう気付くことが"夜明け"なんでしょうか。内容も異色で、突き落とされるような感じ。

8.ANGEL’S TALE  HYDE:詞曲
遠い日に天使に恋をした…という御伽噺。単純にそう考えてもいいんですけど、このアルバムのテーマや、これまでのHYDEさんの歌詞からすると、手の届かない誰かへの想いの比喩かな、と。
アコギのアルペジオをメインの歌伴に使っていて、穏やかな優しいイメージ。途中から挿入されるストリングスは、冬の清冽な空気や厳かさを感じさせます。

9.THE CAPE OF STORMS  HYDE:詞曲
「さまよえるオランダ人」という戯曲をモチーフにしているそう。この中の"オランダ人"は、永遠に海上を彷徨う呪いをかけられています。その呪いを解けるのは、彼に永遠の愛を誓う女性が現れた時だけ…。戯曲では、彼に愛を誓う女性が現れ救われますが、THE CAPE OF STORMSの主人公は、永遠の愛など存在しないと諦めているよう。この曲は後に、「下弦の月」という映画の主題歌にもなりましたが…これがアダムの心だとしたら、美月の選択は切ないですね(^^;
劇的なストリングスの音色、起伏の激しい展開。このアルバムのクライマックスと言って良いでしょう。「Will this be my fate?」という問いかけは、このアルバム全体を貫く叫びであり、悲痛です…。

10.SECRET LETTERS  HYDE:詞曲
アコーディオンとマンドリンの音色が、異国っぽいのに懐かしくて優しくて、切ない。不思議な雰囲気。一貫したリズムが、列車の音のよう。
歌詞は「アンネの日記」がモチーフ、とのこと。勿論、そのままの情景で捉えてもいいですが…自由を奪われ、運命の相手に巡り合うことができない比喩かな、とも。宛のない手紙、というのは、まだ巡り合っていないことの暗示では。そして、今ここで死んでいくとしても、自分の心は変わらない。死の別離を恐れる必要はない。何故なら…また生まれ変わって、会うことができるはずだから、と。…UNEXPECTEDに続く、のかな(笑)