True   1996/12/12
非常に完成度の高い、まるで宝石箱のようなアルバム。磨きに磨いた10曲は、艶やかで華やかで繊細で煌びやか。大粒の宝石か、着飾った貴婦人にでも例えたいほどです。J-POPに燦然と輝く名盤であり、メジャー第1期の最後を飾る傑作!
まず驚かされるのが、ポップスとして洗練されていて、日常のどんなシーンに流れても違和感がないこと。実際テレビ番組の主題歌になった曲もありますが、これまでの生固い印象は薄れ、幅広い層に受け入れられるサウンドになっています。才能のある人たちが売れ線を狙っちゃうと、こんなことになっちゃうらしい(笑) もともとメロディの美しいバンドではありましたが、それをより引き立てるアレンジになっています。

サウンドの変化で、まず分かりやすいのが使用楽器が増えたこと。これまでも使用されていたキーボードやピアノに加え、弦楽器や管楽器を初めて大々的に導入し、キレイ且つキャッチーな魅力を獲得しています。初挑戦にしてこの音を着こなしてしまうセンスには脱帽。更に、セルフプロデュースだった前作とは打って変わって、6人のプロデューサーを起用。メンバーそれぞれの個性が突出している印象のあった前作と比べ、音が曲の中に自然に収まり、他の楽器との調和の取れた仕上がりになりました。また、複数のプロデューサーを起用することにより、曲のバラエティも豊か。…それなのにどの曲もラルクらしいのは、やはりセルフプロデュースで培った自信の為せる技? プロデューサーの個性に塗りつぶされること無く、新しい色を加えることに成功しています。
で、メンバー自身の音ですが、ギターは全体的に、ドラムは一部低音を残して下がっています。ギターとドラムを下げなければいけない理由は…S.O.A.P.を聴いていただければ明白かと…(笑) この2人が全開になると、どこをどう頑張ってもポップスにはならない。音色も丸みを帯びて、柔らかい雰囲気になっています。
2人とは逆に、若干強調されているのがベース音。これまでももちろん特長のあるプレイでしたが、よりメロディとして露出している印象です。
…少し話はそれますが。このアルバムから「Caress of Venus」に代表される、ダンサブルというテイストを持った曲が登場してきました。ロックバンドとは言えポップスの中に身を置く以上、他の音楽の影響を受けないことは無いでしょう。ましてや、このアルバムは売れ線を狙っているのです!(笑) 90年代に入ってR&Bやダンスミュージックの流れを汲む音楽など、低音のビートを強調した音楽がチャートの上位に飛び込んできますが、当然このアルバムもそんなリスナーの嗜好を意識していると思われます。ドラムの中でバスドラムだけを強調したり、低音の打ち込みを使ってみたり…その結果、望み通りの効果を得られている部分も、もちろんあります。
ただしベースは…ベースが強調されているのも、最初はこの「低音のビート」というアイデアの中の話なのかと思いますが、得られた効果は全く別物になってしまいました(笑) てっちゃんのベースはリズム隊でありながらリズムよりメロディを取っているので、ビートじゃなくてメロディが低音域に出現! ギターは装飾的な役割をし、ベースで歌メロに対するカウンターメロディを取るというラルク独特のスタイルは、このアルバムで定着したと言えるのでは。

さて。「True」という名のついたこの作品ですが、ここは「真実」と訳するより「真の、本物の、」という形容詞として訳したほうがしっくりするかも。「True」はラルク初のミリオンセラーですが、これは実は活動休止中に達成した記録。本人達がメディアに露出しない中での達成は、音そのものへの評価と取って良いのではないでしょうか? まさに「本物の音」の名に相応しいアルバムになってます☆
注目曲

1.Fare Well  hyde:詞/ken:曲
kenちゃんらしい、風景の浮かぶような美しいバラード。ピアノの音は風、ドラムは踏み締める大地、ベースラインは続いてゆく道、そしてサビにだけ挿入されている弦楽器が広がる空を連想させます。音は飽くまで柔らかく、果てしなく広がる風景そのものの広大さと優しさで、主人公を包んでいます。
その中にあって、ギターとボーカルは感情そのもの。切なさに苛まれながらも、歩いていく決意を主人公は持っている。この曲は別れの曲であり、同時に新しい旅立ちの曲でもあるのかな。

2.Caress of Venus  hyde:詞/ken:曲
繰り返し挿入されるピアノと、拍を強調する低音の打ち込みが印象的。歴代の曲の中でも最もダンサブルな曲の1つ。よく聴いてみると、エレキギターのメロディが超小さい!(笑) ベースもかなりの低音でフレーズが取りにくく、そんな空隙を無数のパーカッションが埋めています。よくライブで演奏される人気曲ですが、ライブで聴いて初めて、ギターとベースのメロディに気付いた人も多いのでは?
歌詞は甘いラブソングですが、どこかサラッとしていて、現実の恋というよりは永遠の憧れを歌っている印象です。

3.Round and Round  hyde:詞曲
華やかなアルバムにアクセントをつける、ロックで攻撃的な曲。歪んだ音のギターリフと唸るような低音ベースがカッコいい! ドラムも重くて生き生きとしていて、リズムパターンに変化があり、聴いていて気持ちがいいです。
歌詞もこのアルバムでは異色。主人公は「あなた」の世界の歪みに気付いて批判している。でもサビまで来ると分かるのですが、主人公もその世界の住人なんですよね。世界はメリーゴーランドのように閉じて回り続けていて、歪みは連鎖しつづける…けど、どうしようもないという内容。そうなると、この「あなた」は世界の創造主である神様なのかなって気もします。

4.flower  hyde:詞曲
アコースティックなギターの音色が美しいポップソング。音の1つ1つがクリアで、キラキラしている印象。ただ、その影で、硬いほど際立った音を繋ぐためにパッド音が入っていて…こういう小技が憎いですね(笑)
歌詞は相手を太陽、自分を花に見立てています。主人公は現実世界では相手に会えないので、夢を見ていることに気付いているのに眠りつづけている。でも夢の中の相手も冷たくて、現実の相手はどうしているのかな、なんて思う。敷きつめる花は想いの表現。こんなに想っている自分に気付いて、夢の中に閉じこもる自分を起こしに来て、って感じでしょうか? 共感できそうで、実は不思議な歌詞。

5."good-morning Hide"  sakura:詞/hyde:曲
sakuraさんの初作詞! …多分、自分と全く同じ風景を見ていると思ってた仲間が、違うものも見ていてショック…っていう内容です。英語に訳されていますが元は日本語で、歌詞カードに原文を見ることが出来ます。
曲は、ギターが主役のカッコいいロック! 音色の違うギターが何台も重ねられ、ベースとドラムの使用音域も高めで、ちょっと珍しい浮き上がるような音のバランスになってます。歌詞の「Why did not〜」から始まる一節に被るギターは激情の迸り、その後に続く、一瞬アコギだけが残される部分は主人公の孤独と重なりますね。

6.the Fourth Avenue Cafe  hyde:詞/ken:曲
生ブラスだよ! 東京スカパラダイスオーケストラの方たちが管楽器を演奏してくださってますv Aメロではちょっと出てきているギターですが、あとはひたすら管楽器に出番を譲って、普段はギターで雰囲気付けするようなところも全部お任せしています(笑) 時々入ってくるピアノも印象的。あんまりロックっぽくない、異色な曲。
hydeさんは本当にカフェで歌詞を書いたそう。冒頭の雑踏の音は映画のオープニングのように、リスナーを曲の世界に引き込みます。

7.Lies and Truth  hyde:詞/ken:曲
アダルトでサスペンスっぽい感じの曲。弦楽器が大々的に挿入されていて、ゴージャスな雰囲気もありつつ、ちょっとハードでダンサブルなところもあり。このごちゃ混ぜ加減はラルクっぽいのですが、これが「ラルクっぽい」となったのはこのアルバムからなんだよね。そうとは思えない熟達したアレンジっぷり(笑)
目立ってはいませんが、sakuraさん独特のシンバル使いが大変美しいですね。耳を澄ますと、シンバル1つ1つの違いや、スティックの当たる角度まで分かりそう。ベースはスライドを多用していて、こちらもてっちゃん独特。メロディアスで華やかです。

8.風にきえないで  hyde:詞/tetsu:曲
初めてオリコンのトップ10入りを果たした記念すべき曲。Trueで一番最初に録られた作品ですが、これまでのイメージを打ち破る衝撃的なポップさ! この曲の成功が、このあとのラルクの歴史を変えたといっても過言ではないはず。
曲調は明るく、吹き抜ける風のようなイメージ。軽やかなベースとドラム、キレイな音色のギター、そしてテッちゃんのファルセットコーラスが爽やかさを演出しています。乗るhydeの歌声も楽しげで、恋をしている詞に似合っていますね。

9.I Wish  hyde:詞/tetsu:曲
クリスマスっぽいパーティーソング。アクセントとしてではなく、最初から最後までキーボードが入っているのが珍しいですね。キーボードソロまであります。ギターはアコギを掻き鳴らすのみ、ベースもラルク史上最も単純なラインで、ドラムも控えめに拍を刻んでるだけ。子供のコーラスや手拍子も入っていて、肩の力が抜けて楽しんでいる感じ。所々に挿入された管楽器が華やかで、パーティー気分を盛り上げてくれますv

10.Dearest Love  hyde:詞/tetsu:曲
暗くて壮大なバラード。歌メロは4拍子ですが、拍を刻む楽器は8分の6拍子で演奏してますね。もしくは4分の4拍子で3連符かな? 楽譜はどちらか分かりませんが、細かい音の連なりは燃え盛る炎の閃きのよう。ところどころ効果的に入ってくるピアノと弦の音、ギターソロ、そして高音のコーラスは全て主人公の嘆きの声。
何でこんな明るいアルバムのラストに救いのない曲、と思いきや、心を燃やし尽くすように盛り上がりながら消えていくラストは、カタルシスを感じさせて後味は悪くないです。胸が熱くなるような感じ(笑) 最後まで聴いて吐くのは、満足のため息になるかとv